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長野地方裁判所 平成10年(行ウ)7号 判決 1999年8月06日

原告

西澤治作

被告

長野税務署長 菊地明夫

右指定代理人

中垣内健治

須藤哲右

服部重雄

宮澤憲司

降籏元

今泉憲三

齋藤隆敏

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告長野税務署長が原告に対し平成八年一〇月一八日付けで行った平成七年分の所得税の更正処分(平成一〇年一月三〇日付け裁決による一部取消し後の額)のうち、総所得金額一三九万八三八四円、分離課税の長期譲渡所得金額一一九三万二二三七円、納付すべき税額一七八万六〇〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

第二事案の概要

一  事案の要旨及び争点

本件は、日本鉄道建設公団北陸新幹線局長(以下「本件事業施行者」という。)によりなされた北陸新幹線建設工事にともない自己所有の土地である長野市柳町九五番一一及び同所九六番四の土地二筆(以下「本件第一土地」という。)並びに同所九五番一二、同所九五番一四、同所九六番五及び同所九六番七の土地四筆(以下「本件第二土地」といい、本件第一土地と併せて「本件土地」という。)の収用等の裁決を受けた原告が、右収用に係る譲渡による所得を含む平成七年分の所得税の確定申告をなしたところ、被告が、右の収用等による所得が租税特別措置法(平成八年法律第一七号による改正前のもの、以下「措置法」という。)三三条の四第一項の適用を受けないものとして更正処分をなしたため、右更正処分が右法条の適用を誤ったものであると主張して、その取消しを求める事案である。

二  本件訴訟に至る経緯

原告に対する本件更正処分及び不服申立ての経緯等は別紙一のとおりである。(当事者間に争いがない。)

三  本件各処分の課税根拠等に関する当事者双方の主張

1  被告

(一) 総所得額・・・・一六二万〇九一一円

次の(1)ないし(3)の合計額である。

(1) 不動産所得・・・・三六万六五七八円

次のアの金額からイの金額を控除した金額である。

ア 総収入金額・・・・三八万一一八五円

次のⅠ及びⅡの合計金額である。

Ⅰ 本件第二土地に対する補償金の額・・・・二三万一一八五円

本件第二土地を使用することに対する補償金であり、所得税法二六条に規定する不動産所得の収入金額である。

Ⅱ その他の賃料収入・・・・一五万円

原告の確定申告書に記載された金額である。

イ 必要経費・・・・一万四五九八円

次のⅠ及びⅡの合計額である。

Ⅰ 本件第二土地に対する補償金についての必要経費・・・・八六五八円

本件第二土地に係る平成七年度及び八年度の固定資産税及び都市計画税の額のうち、使用する土地の補償の対象となった期間(平成七年八月二七日から平成八年八月二六日)に対応する金額である。

Ⅱ その他の賃料収入についての必要経費・・・・五九四〇円

原告の確定申告書に記載された金額である。

(2) 一時所得・・・・〇円

本件収用に対する補償金のうち、本件土地に存する間知石の動産移転補償金は三万〇五九一円であり、同金額は所得税法三四条に規定する一時所得の収入金額となるところ、同条三項の規定により、一時所得の特別控除額を控除し、一時所得の金額は〇円となる。

(3) 雑所得・・・・一二五万四三二四円

原告の確定申告書に記載された金額である。

(二) 分離課税の長期譲渡所得の金額・・・・六〇六八万三五五〇円

次の(1)の金額から、(2)及び(3)の合計額を控除した金額である。

(1) 総収入金額・・・・・六四九三万〇〇五二円

本件第一土地に対する補償金四五〇五万八一三七円は、本件第一土地が収用されたことの対価であるから、所得税法三三条に規定する譲渡所得の収入金額であり、また、残地補償金一九八七万一九一五円は、本件土地が収用されたことに伴い残地の価値が減少したことによる対価であるから、同法施行令九五条により譲渡所得の収入金額となる。

(2) 必要経費・・・・・三二四万六五〇二円

本件土地の取得費の金額であり、措置法三一条の四第一項の規定により、(1)の金額に一〇〇分の五の割合を乗じて算出した金額である。

(3) 特別控除額・・・・・一〇〇万円

措置法三一条五項による長期譲渡所得の特別控除額である。

(三) 所得控除額・・・・・九三万五六七〇円

原告の確定申告書に記載された金額である。

(四) 課税総所得金額・・・・・六八万五〇〇〇円

右(一)の金額から右(三)の所得控除額を控除し、さらに国税通則法一一八条一項の規定により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた金額である。

(五) 課税される分離課税の長期譲渡所得の金額・・・・・六〇六八万三〇〇〇円

右(二)の分離課税の長期譲渡所得の金額について、右(四)同様一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた額である。

(六) 算出税額・・・・・九一七万〇九五〇円

次の(1)および(2)の合計額である。

(1) 課税総所得金額に対する税額・・・・・六万八五〇〇円

右(四)の課税総所得金額に所得税法八九条一項に規定する一〇〇分の一〇の税率を乗じて算出した額である。

(2) 課税される分離課税の長期譲渡所得の金額に対する税額・・・・・九一〇万二四五〇円

右(五)の課税される分離課税の長期譲渡所得の金額に措置法三一条の二第一項に規定する一〇〇分の一五の税率を乗じて算出した金額である。

(七) 特別減税額・・・・・五万円

平成七年分所得税の特別減税のための臨時措置法(平成六年法律第一一〇号)四条の規定による額であり、原告の確定申告額と同額である。

(八) 源泉徴収税額・・・・・〇円

原告の確定申告書記載の金額である。

(九) 納付すべき税額・・・・・九一二万〇九〇〇円

右(六)の算出税額から右(七)の特別減税額及び右(八)の源泉徴収税額を控除し、さらに国税通則法一一九条一項により、一〇〇円未満の端数を切り捨てた額である。

(一〇) 更正処分の適法性

本件更正処分に係る平成七年分の総所得金額、分離課税の長期譲渡所得金額及び納付すべき税額(裁決による一部取消後の額)は、被告が本訴において主張するそれぞれの額と同額であるから、右処分は適法である。

(一一) 過少申告加算税賦課決定処分の適法性

本件更正処分は、前記のとおり適法であり、平成七年分について原告が本件特例を適用することができなかったことについて、国税通則法六五条四項の「正当な理由」があったとは認められず、別紙二のとおり過少申告加算税額は一〇一万円となるところ、本件過少申告加算税賦課決定処分の金額は右と同額であるから、本件過少申告加算税の賦課決定は適法である。

2  原告

原告は、本件各処分の根拠となる事実については、収用に伴う所得につき措置法三三条の四の適用がないことを争うほか、明らかにこれを争わない。

四  措置法三三条の四の適用に関する当事者の主張

1  被告

(一) 措置法三三条の四

(1) 規定のあらまし

措置法三三条の四第一項は、個人の有する資産が収用交換等により譲渡された場合で、その譲渡した資産について措置法三三条以下に規定する代替資産等を取得した場合の課税の特例の適用を受けないときは、収用交換等された資産の譲渡所得金額の計算上、特別控除として五〇〇〇万円を控除する旨規定し、同条の四第三項は、資産の収用交換等による譲渡が、公共事業施行者から当該資産につき最初に買取り等の申出のあった日から六か月を経過した日までにされなかった場合には、当該資産については同条の四第一項の規定を適用しない旨規定している。すなわち、右規定は、収用交換等により資産を譲渡した場合において、その譲渡が公共事業施行者から最初に買取り等の申出があった日から六か月以内に譲渡されているなど一定の要件にあてはまるときのみ、譲渡所得金額の計算上、五〇〇〇万円の特別控除の適用を認めるとするものである。

(2) 本件特例の適用要件

前記(1)において述べたとおり、措置法三三条の四に規定する本件特例は、一定の要件を満たしている場合にのみ適用があるものであり、具体的には次に述べる全ての要件を満たしていなければならない。

(ア) 個人の有する資産の譲渡が、収用等による譲渡(措置法三三条一項各号)又は交換処分等による譲渡(同法三三条の二第一項各号)であること(同法三三条の四第一項)

本件特例が適用される「収用等」とは、個人の有する資産で同法三三条一項各号に規定する収用、買取り、換地処分、権利変換、買収、買入れ又は消滅(以下「収用等」という。)により、補償金、対価又は清算金(以下「補償金等」という。)を取得した場合をいうと規定されている(同法三三条一項)。

したがって、資産が公共事業のために買い取られた場合のすべてが「収用等」に該当し、本件特例の適用が受けられるものではなく、同法三三条一項各号の規定に該当するものでなければならない。

(イ) 収用交換等により譲渡した資産は、棚卸資産等でないこと(同法三三条の四第一項)

(ウ) その年中の収用交換等により譲渡した資産のいずれについても収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例(同法三三条)及び交換処分等に伴い資産を取得した場合の課税の特例(同法三三条の二)の適用を受けないこと(同法三三条の四第一項)

(エ) 公共事業施行者から最初に買取り等の申出があった日から六か月を経過する日までに譲渡したこと(同法三三条の四第三項一号)

この要件は、公共事業施行者の事業遂行を円滑かつ容易にするという政策的な考慮に基づき定められたものであって、資産が土地収用法等の規定に基づいて収用され、補償金を取得した場合(同法三三条一項一号)もこの制限に服することは明文上明らかである。

右にいう、「買取り等の申出のあった日」とは、原則として、公共事業施行者が資産の所有者に対し、当該資産を特定し対価を明示してその買取り等の意思表示をした日をいうものと解すべきである。

なお、この六か月の期間については、その資産の譲渡につき土地収用法四六条の二第一項の規定による補償金の支払の請求を行った場合には、右補償金が、権利取得裁決等において確定する補償金の前払としての性格を有していることからして、実質的には公共事業施行者の申出を受託したことと異ならないとの観点から、最初に買取り等の申出があった日から六か月を経過した日までの期間に、その請求をした日からその譲渡をした日までの期間を加算することとされている(同法三三条の四第三項一号、同施行令二二条の四第二項二号)。

(オ) 同一の収用交換等に係る事業について二以上の譲渡があり、その譲渡が、年をまたがって二回以上に分けて行われた場合には、最初の年に譲渡した資産に限られること(同法三三条の四第三項二号)

(カ) 収用交換等により資産を譲渡した者は、事業施行者等から最初に買取り等の申出を受けた者であること(同法三三条の四第三項三号)

(3) 本件特例の申告要件

本件特例の適用を受けるためには、確定申告書(その期限後申告を含む。)に本件特例の適用を受けようとする旨の記載をするほか、同法施行規則一五条二項に規定する次の書類を添付しなければならない(同法三三条の四第四項)。

(ア) 本件特例の適用の対象となった譲渡をした資産について、その公共事業施行者から交付を受けた買取り等の申出があったことを証する書類(公共事業用資産の買取り等の申出証明書)

なお、この書類には、買取り等の最初の申出の年月日及びその申出に係る資産の明細を記載しなければならない。

(イ) 公共事業施行者のその買取り等の年月日及びその買取り等に係る資産(すなわち譲渡資産)の明細を記載した買取り等があったことを証する書類(公共事業用資産の買取り等の証明書)

(ウ) 買取り等に係る資産が法令の規定(同法施行規則一四条七項各号)に基づき収用又は換地処分されることを証する公共事業施行者の証明書類(収用証明書)

(二) 本件土地の収用に至る経緯

(1) 本件土地の買取等の申出は、本件事業施行者が施行した北陸新幹線軽井沢・長野建設事業(以下「本件事業」という)の実施に際してその用地の買収等のためになされたものである。

(2) 本件事業の用地買収等に先立ち、本件事業施行者は、平成三年八月二二日付けで、本件事業の用に供する土地の取得等を長野県に委託する旨の「北陸新幹線用地事務の委託に関する協定書」を長野県知事との間で取り交わし、本件事業に係る用地買収等の業務を長野県に委託した。

また、右協定に基づき、委託用地事務を実施するための「用地事務委託実施契約書」を取り交わし、右契約書の別紙「実施計画書」のとおり委託用地事務を実施することとした。

(3) 本件事業については、平成六年一一月一日付け建設省告示第二一一一号で、土地収用法二六条の規定による事業認定の告示がなされた。

右委託に基づき、新幹線事務所職員が、委託用地事務として用地買収等を行うこととなり、平成五年三月二日以降十数回にわたって、原告との用地交渉にあたった。

(4) 右用地交渉において新幹線事務所職員は、平成六年七月四日、原告に対し本件土地の地積は実測の結果全体で約九五坪となること、地権者会で決まった単価は坪当たり約七九万円であること、右単価で計算すると土地代金の総額は約七五〇〇万円になることについて書類を示して説明し、原告の土地は国道をまたぐ重要な位置なので、早く工事に入りたいとの要望を伝えたが、自分のところは他の土地が解決してからだと主張し、右書類の受け取りを拒否した。

(5) 本件事業施行者は、原告は新幹線事務所職員の十数回にわたる用地交渉においても原告との任意買収がまとまらないことから、平成六年一二月二六日付けで、長野県収用委員会に対し裁決申請及び明渡裁決の申立てをなし、翌二七日には新幹線事務所職員が原告を訪れ、本件事業施行者が長野県収容委員会へなした裁決申請が受理された旨を伝えた上で、本件土地を本件事業の用に供する資産として買い取りたい旨の申出をするとともに本件事業施行者が発行した「公共事業用資産の買取り等の申出証明書」を手渡そうとした。これに対し、原告は、本件買取り申出証明書は受け取れないとして本件買取申出証明書を封筒に戻した上で封筒ごと破り、交渉はまとまらなかった。

(6) 原告からの任意買収は不調に終わり、長野県収容委員会は、平成七年七月二七日付けで本件収用裁決をなした。

(三) 本件土地の収用等に本件特例の適用がないことについて

(1) 本件特例を規定した措置法三三条の四の趣旨及びその適用要件は、前記(一)で述べたとおりであり、法令上、買取りの申出に応じて任意買収により買い取られた場合のみではなく、土地収用法等の規定に基づいて収用される場合も含めて一律にその要件が定められているのであるから、土地収用法等の規定に基づいて収用される場合についてのみ、右規定に定める各要件が適用除外とされているものでない。

(2) 前記(二)で述べたとおり、新幹線事務所職員は、原告に対し、平成六年七月四日には本件土地の実測による地積及び地権者会で決まった坪単価を示した上で土地代金の総額を説明しており、さらに、同年一二月二七日には買取り等の申出年月日及び買取り等の申出をした資産等が明記された本件買取り申し出証明書を原告に手渡し、本件土地の買収についての協力依頼を行っていることから、本件買取り等の申出の日は遅くとも平成六年一二月二七日となり、また、本件土地の収用等があった日は本件収用等裁決書に記載のある権利取得の時期及び明渡しの期限の平成七年八月二六日と認められる。したがって、原告は、本件事業施行者の買取り等の申出から六か月を経過した日までに本件土地の譲渡をしたものではなく、また、本件事業施行者に対する土地収用法四六条の二に規定する補償金の支払請求も行っていないのであるから、本件土地の収用等による譲渡について、本件特例の適用がないことは明らかである。

2  原告

(一) 任意買収の場合と収用の場合は区別して考えるべきで、任意売却の場合には買取申出から六か月の規制がかかるが、収用の場合には損失補償の目的から期間の制限には服しない。

(二) 仮に、期間制限があるとしても、収用の場合には収用委員会の審理裁決があった日又は和解のあった日を基準として六か月の規制に係るものであり、本件においてはいずれにしても措置法三三条の四が適用されるべきである。

(三) 平成六年一二月二七日までの交渉においては、単に協力の依頼があったのみで、補償金の額等の提示はなく、買取申出といえるものはなかった。原告が破ったと被告が主張する買取申出証明書には地目代価の記載がなく、買取申出証明書としての様式を具備していないものである上、原告は受け取りを拒否しているのであるから、買取申出がなされたものとはいえない。

第二当裁判所の判断

一  証拠(乙第一、第二号証、第三号証の一ないし四、第四号証の一及び二、第五号証、第七号証の一ないし九、第八号証、証人若林真一の証言)によれば以下の事実が認められる。

1  本件事業における用地買収についての交渉は、本件事業施行者から委託を受けた長野県の新幹線事務所職員が行うこととなり、原告との間では、平成五年三月二日に同事務所の横山秀樹(以下「横山」という。)が原告宅を訪問して、交渉が始まった。

2  平成六年四月以降は、同事務所の若林真一(以下「若林」という。)が中心となって交渉を行い、横山が担当した時期とあわせて十数回原告宅を訪問し交渉を行ったが、用地買収の交渉は難航した。

3  同年七月四日には、同事務所の係長の須田幹夫と若林が原告宅を訪問し、原告に対して、本件土地の地積が実測の結果全体で約九五坪となること、地権者会で単価が坪当たり七九万円と決まったこと、右単価で計算すると本件土地の代金が約七五〇〇万円になることについて同事務所作成の説明用紙を用いて説明し、右書類を手渡そうとしたが、原告が右書類の受け取りを拒否したため、原告の土地は国道をまたぐ重要な位置なので早く工事に入りたいとの要望を伝え、原告宅を去った。

4  原告と新幹線事務所職員の十数回にわたる用地交渉においても原告との任意買収がまとまらないことから、本件事業施行者は、平成六年一二月二六日付けで長野県収用委員会に対し、裁決申請及び明渡裁決の申立をなし、翌二七日には、若林と新幹線事務所の課長である駒村和久が原告宅を訪れ、本件事業施行者が長野県収用委員会へなした裁決申請が受理された旨を伝えた上で、本件事業施行者作成の公共事業用資産の買取り等の申出証明書を右書類が確定申告の際に必要になる書類である旨を説明の上手渡そうとした。これに対し原告は、右証明書が入った封筒を一旦受けとり、証明書を一旦封筒から出した後、再び証明書を封筒に戻して、職員に封筒を返そうとしたが、同人らが封筒を受けとらなかったため、封筒ごと破り捨てた。両職員は右書類を事務所に持ち帰った。

5  右をもって、原告との任意買収に関する交渉は不調に終わり、長野県収用委員会は平成七年七月二日付けで本件収用等裁決をなした。

二1  措置法三三条の四にいう「買取り等の申出があった日」とは、公共事業施行者が資産の所有者に対して、当該資産を特定し対価を明示してその買取り等の意思表示をした日をいうものと解すべきであるところ、前記認定の事実によれば、交渉の委託を受け交渉にあたった新幹線事務所職員が平成六年七月四日の原告宅訪問の際に、当該資産を特定した上、対価を明示しており、また、同年一二月二七日に、買取り申出証明書を手渡そうとし、買取の意思表示を確定的に行っており、遅くとも同日までには買取り等の申出があったものと認められる。

2  原告は、買取申出証明書に地目代価の記載がないこと、原告が受け取りを拒否したことをもって、買取申出の存在を否定する。確かに、原告の指摘するとおり買取申出証明書には代価の記載は存しないが、前記認定のとおり、七月四日の交渉において土地の面積を特定した上、坪単価及び買取代金について明示的に述べており、一二月二七日買受申入れは右の代価を前提として行われていることは明らかであるから、買取申出証明書に代価の記載されていないことをもって買取申出の存在を否定することはできず、また、措置法三三条の四第三項一号においては申出が要件とされていることは条文上明らかで、証明書の受け取りを拒否した事実は前記のとおり認められるものの、この点は買取申出の存在を否定する根拠とはなり得ない。

三1  以上によれば、原告は、本件事業施行者の買取り等の申出から六か月を経過した日までに本件土地を譲渡したものとは認められないから、措置法三三条の四の特例の適用を受け得ないこととなる。

2  原告は、措置法三三条の四第三項一号の六か月の規制は、任意買収の場合にのみ適用されるものであり、収用の場合には右規制に服しない旨を主張するが、同条の規定自体及び本特例が公共事業施行者の事業遂行を円滑かつ容易にするという政策的な趣旨に基づくものであることに鑑みれば、右の解釈を採用することはできない。また、原告は、右の六か月の規制に服するとしても、収用の場合は収用委員会の審理裁決があった日または和解のあった日を基準としてすべきであると主張するが、明文上「買取等の申出があった日」とされており、右主張も理由がない。

第四結論

以上の次第で、本件各処分は適法であり、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して主文のとおり判決する。

(平成一一年五月二七日弁論終結)

(裁判長裁判官 佐藤公美 裁判官 針塚遵 裁判官 廣澤諭)

別紙一

本件課税の経緯(平成七年分)

<省略>

別紙二

平成七年分 所得金額及び税額の計算表

<省略>

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